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20代から助走せよ、越境せよ──川村元気と解く、エンターテインメントで生きる術 - Forbes JAPAN

“不要不急”と槍玉に挙げられたエンターテインメント業界は、少しずつ息を吹き返しつつある。『鬼滅の刃』など話題作が公開され、SNSには日々配信されるライブや演劇の感想が続々と寄せられる。『あつまれ どうぶつの森』ではまるでアナザーワールドのように、人々が思い思いの島を作り、友人を招き入れている。

先の見えない世の中ほど、エンタメの力に心を動かされている人も多いだろう。

そんなエンタメ業界をフィールドに活躍する仕掛け人たちの言葉から、そのキャリアや価値観を紐解く連載第2回。

今回は映画『告白』や『モテキ』、そして社会現象を引き起こした『君の名は。』など、数々の大ヒット作品のプロデューサーを務め、小説家、脚本家、クリエイティブ・ディレクターなどジャンルを越え幅広い活躍を見せる川村元気氏を迎えた。

株式会社アカツキに新卒で入社し、29歳にしてHead of IP Businessを務める野澤智信を聞き手に、その仕事観を深掘りする。

スタートが早ければ早いほど、ダイナミックな仕事ができる


野澤:今日は僕、ちょっと緊張していて。それこそ川村さんの作品をたくさん観てきましたし、どの作品も大ヒットしている。若いときからずっと成功しつづけているじゃないですか。本当に凄まじいな、って。

川村:失敗も結構してますよ。そのときは目立たないように静かにしているだけです(笑)。ちなみに野澤さんっていま何歳ですか?

野澤:今年29歳になりました。

川村:その若さで役員を務めているのはすごいですね。普通の会社だとだいたい20代は下積みで、自分の思うように仕事を回せるようになるのは40代になってからだったりする。

本当はもっとスタートを早くして、20代からどんどん挑戦して失敗したほうがいいんですよね。20代なら「若手カード」が使えるし、許してもらえる。その時期があれば、30代、40代になってダイナミックな仕事をすることができる。

そういう意味では、若いうちからチャンスをもらえるなんていい会社ですね。

野澤:ありがとうございます(笑)。タイミング良くアカツキというベンチャーフィールドに入れて、会社と一緒に成長してこれたのが要因として大きいです。一方で、映画業界って、そんなに若いうちからプロデューサーを務められるようなイメージではなかったのですが、それはよくあることなんでしょうか?

川村:最近は若い人も増えてきましたが、以前はほとんど20代プロデューサーはいませんでした。僕が23歳で東宝の映画企画をやりはじめたときは、周りに部長クラスの人しかいなかった。当時、僕のすぐ上の先輩は12歳上。

でも、その時にいろんな先輩のあとについて良い経験をさせてもらったんですよ。新海誠さんに初めて会ったのもその頃ですね。もう17年前か(笑)

野澤:その時期にプロデュースの目線やクリエイターさんとの接点が築かれていったんですね。そして『君の名は。』は10余年越しに実現していったと......すごい話だ......。

川村:当時の部長、いま東宝の社長を務めている島谷能成さんがそういう方針だったんです。そういうフックアップによって、大物監督や俳優に対して、ある種無責任というかフレッシュな感覚で出会うことができたんですよね。それで26歳のときに『電車男』を企画しました。

野澤:その年齢で『電車男』は早すぎですね......。

川村:たぶん作り手って、20代後半から30代前半にかけて一度はピークが来るんですよ。そこで代表作と呼べるようなものを作れるかどうかがポイントになってくる。でも20代前半から助走していないとその打席にはたどり着けないはずなんです。

「がむしゃら」の20代、「言われた仕事をやる」30代


野澤:川村さんは映画に限らず、小説や脚本、絵本、音楽、広告......さまざまなジャンルの仕事を手がけて全部ヒットさせていらっしゃいます。「年齢」や「分野」を越境してヒットを出す秘訣を少しお裾分けしていただきたいです。

川村:ビギナーズラックの理由をちゃんと考えるようにはしてるんです。初めてやるものには、つねにいろんなハンデがあって、それをどうひっくり返そうかと考えている。

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それこそ『電車男』のとき。有名作家の小説や漫画原作は、すべてコネクションのある先輩方が持っていっちゃうわけですよ。それで、僕は苦肉の策でインターネットから原作を探すことにしたんです。「おじさんたちはさすがに、ここを見てはいないだろう」って。

野澤:若さを逆に武器にしていくということですね。 でも説得して実装するのは骨が折れそうですね......。

川村:そうなんです。東宝の役員にプレゼンしたとき、2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)をプリントアウトしたものを持っていって。「この“orz”ってのは何?」「えーっと、これは四つん這いになっているポーズを表してて......」みたいな(笑)

でも「インターネット発のBased on True Story Movies(事実に基づいた映画)」ってそれまでなかったから、業界としても革新的な企画になった。自分なりに勝算はあった。

「高嶺の花とどうやって付き合うか」は、古典的なロマンティックコメディの筋書き。恋愛が成就するのも王道のプロセス。ただ、圧倒的に新しかったのは、その仲間がインターネットの住人であり、顔も合わせたことのない人だったということ。しかもそれが実話。その組み合わせの目新しさが強かった気がします。

野澤:川村さんがおっしゃる「普遍性x時代性」の法則ですね。さらに、今の「自分の等身大」を企画に活かしていくということでしょうか。ちなみに、川村さんが映画以外の分野に取り組むモチベーションはどういったところにあるんでしょうか?

川村:実のところ最近は、基本的にはお誘いを受けて仕事することがほとんどです。20代でがむしゃらにやりたいことを仕事にしていたぶん、30代に入ってからは意識的に「依頼があった仕事について考えてみる」ことにしたんですよ。

大きく影響を受けたのは、『仕事。』という対談集を作ったとき、宮崎駿さんから坂本龍一さんまで、ありとあらゆる巨匠から話を伺って「自分だけで決めた人生なんてあまり面白くない」と思い知ったからですね。

僕もそうでしたが、20代から30代前半までにやり切れたら、一つくらいは代表作が出るはずなんです。でもそこで一度惰性になる。「こうすればだいたいこうなるよね」みたいな、仕事の型がある程度定まってくる。

そうなるとやっぱり、違うことを試したくなるんです。

野澤:それでオファーを受けた小説やアニメの世界に飛び込んだんですね。

川村:そうすると、一からまた勉強し直すことになるんです。小説の書き方も知らなかったし、アニメも実写とまったく違う。

それでやりはじめるとまた新しい発見がありました。小説を書いているとき、フラストレーションを感じたのは「音が鳴らない」ってこと。映画には音楽という大きなアドバンテージがあるんだという、当たり前のことに改めて気づかされたんです。

それから音楽と映像の関係についても「こういう構造になっているんだ」と勉強するようになって、音楽と映像を究極までシンクロさせるとどうなるだろう、と考えた先にサカナクションとやった『バクマン。』や、RADWIMPSとやった『君の名は。』みたいなアプローチになった気がします。

野澤:映画だけどまるでMVのようにも感じられて、視聴者からみると、革命的だったと思います。

川村:映画にはすべてのエンターテインメントの要素が含まれています。物語、映像、音楽などいろんな仕事において、それぞれの要素を深掘りしていくと、すべて映画に還元することができる。

そうやって、さまざまなクリエイターと関わって、それぞれの個性をどう組み合わせたら面白くなるかなって、考えられるようになるんです。

「100年後に残る作品」にある普遍性と時代性


野澤:「越境する」ことが巡り巡って、自分の仕事に返ってくるんですね。僕もまだ若いので、いわゆる王道から外れた仕事をしていきたいと考えているのですが、一方で感じているのは、エンタメ業界は「トラックレコード主義」というか、実績を積んでヒット作をしっかり当てていかなければ、企画の自由度も予算も上がらないという業界構造。

もちろん、自分としてもしっかりヒット作を積み上げていきたいのですが、さまざまな制約を感じることも多くて。この重厚長大な流れに逆らうことは難しいんでしょうか?

川村:最近、『理系。』という『仕事。』に続く対談集を出したのですが、その際に(マリオシリーズなどの生みの親で任天堂代表取締役フェローの)宮本茂さんとお話しをさせていただきました。宮本さんは必ずしも予算を潤沢にかけるようなゲームづくりを志向しているわけではありませんでした。

そもそも「公園の遊具のようなものをつくりたい」と考えて任天堂に入社されて、その思いでここまで来ている。公園のブランコやシーソーはきっと100年後にも残っているだろうけど、マリオもそういう普遍性を持っているんですよね。

僕もどちらかと言えばそういう志向で、めちゃくちゃ予算をかければブランコやシーソーのような普遍性のあるものが生まれるわけでもないのかなと思っています。もちろん必要な予算は確保しなければならないけど、ただただ予算をたくさんかけて大作をつくるよりは、100年後にも「面白いね」って、言われつづけられるような映画や小説をつくりたい。

野澤:「100年後に残るもの」ってことは、その物語やキャラクター、体験の耐久性が高いということ、つまり上辺ではなく人間の本質をついたものでなければいけませんね。

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川村:まさに。人間って時代が移り変わってもどうにも変わらない部分がありますよね。ほら穴で暮らしていた頃から、「暗がりやキバのある動物は怖い」と思っていたはず。何に笑えるのか、泣けるのか。

原始から人類が持っているような普遍的で根源的な感情のタネと、「なぜ、いまそれをやるのか」という時代性と、二つの円が重なるわずかなラインを狙っていくのが重要なんでしょうね。

だから、「なんでも好きに作ってください」と言われて、面白いものをつくった人なんて正直、見たことがない。そのときの身の丈なりに「まだ誰も気づいてないけど、誰もが共感できることってなんだろう」と真剣に考え抜くと、意外といちばん強いアンサーが出たりする。

ゲームの要素を入れると、すべてが「ゲーム」になる


野澤:川村さんから見て、「ゲーム」ってどんなコンテンツだと思います?

川村:ゲームって他のエンタテインメントと比べても圧倒的に時間を費やしますよね。本は普通は数時間で読み終わるし、映画は2時間、音楽だったら3、4分ですよ。

野澤:ですね。ゲームなら、100時間くらいは普通に使います。

川村:その時間を使ってもらうなかで作り手側ができること......ストーリーテリングやテーマは何だろうと考えたりします。

野澤:そうですよね、圧倒的に時間を使ってもらえるのは、ゲームの強みではあるんです。没入・集中させる力もある。

川村:一方で、スマホゲームが映画やアニメ化されるようなIP(知的財産)になりにくいのは、ユーザーが辞めるとき、“イヤな思い出で別れている”可能性もあると思うんです。「もう飽き飽きだ」とか「こんなにお金をつぎ込んだのに」とか。

でも本当は、そこに普遍的な感動と時代性がマッチしたストーリーやテーマを設定すれば、良い思い出も作れて、価値を生み出せるのではないか。とは思います。

野澤:まさに。ぜひ川村さんと一緒にゲームをつくってみたいです。ゲームって他のコンテンツと決定的に異なる部分があると思っていて、“情報量が一次元”が多いんですよ。観る、聴く、に加えて「触れる」がある。つまり、それだけでコンテンツの関わり方を変えることができるんです。

それと、「ゲーミフィケーション」というワードもありますが、ゲームの要素を入れるとどんなコンテンツもゲームに化ける。良くも悪くも「カレー粉を入れるとなんでもカレー味になる」みたいな味の濃さがあるジャンルです。

川村:確かに、面白い。触れる、ですね。そこで語れる物語やテーマがなにか、興味がありますね。

「ムチャ振り」から自分の得意や「好き」が見えてくる


野澤:エンタメ業界を目指す若者に対してアドバイスされるとしたら、どんな言葉をかけます?

川村:「自分がやりたいこと」を問われる時代だと思いますが、それだけのものって、大して面白くない気もしています。たまに若手のクリエイターやプロデューサーが「こういうのやりたいんです」っていろいろと話してきてくれるんだけど、「すごくいいね!他には?」って、3回くらい聞きつづけてみると、ネタ切れしちゃうんです。

そうやって深掘りしてみると、意外とそこまで「自分がやりたいこと」が多くないことがわかる。だから、「頼まれたことをやってみる」のも良いことだと思うんですよ。僕はまさに30代、そんな感じでしたし。

野澤:いまの若者は「好きなことを仕事に」みたいなプレッシャーが大きいと思うんです。好きなものを探さなければならない。でも好きなものがなければ、頼まれたことからはじめていくのも良い方法ですよね。

川村:ただ、好きなことを仕事にしたほうがいいのは確かなんです。ほとんどの起きている時間を仕事に費やすことになるわけだから。

でも自分らしさや自分の好きなことって、意外と自分ではよくわかっていないものなんですよね。先輩にムチャ振りされてはじめて「あ、意外とこれ得意だ」とか「好きだったんだ」とわかったりもする。

野澤:「頼まれた仕事」の中でも川村さんの場合、大きな題材だったり著名なクリエイターさんとのコラボレーションも多いと思っているのですが、そういった仕事を呼び込む秘訣はありますか?

川村:そうですね......将棋でたとえると、たぶん人より指し手のパターンが多いんだとは思います。パターンを増やしながら「そんな手あったんだ!」みたいな手を打ちたいと思っている。

最近新聞で近藤麻理恵さんと共作の小説連載をはじめて、すごく驚かれたんですけど、そういう意外な組み合わせを考えるのが好きなんです。ちょっと違和感があることに興味を惹かれるんですよ。

「こんまりさんがNetflixで世界的に話題になっている」みたいな話を聞いて、気になって一度お会いしてみると、「なるほど、メソッドや理屈ではなく、むしろ精神性やシックスセンス(第六感)の文脈で支持されてるんだな」とわかる。

そうやって、普段過ごすなかで気づいたことを“違和感ボックス”に貯めておいて、わからないことをきちんと勉強したり、自分と一見かけ離れた仕事をしている方とお会いしたりすると、知らず知らずのうちに未来の仕事につながっていく気がします。

野澤:なるほど。すごく参考になります。

川村:逆に僕が野澤さんに質問してみたいんですけど、20代でいろんな現場を体験して、役員にもなって、若手のエースとして期待されているわけじゃないですか。もうすぐ30代を迎えるにあたって、これからどういう仕事をやっていきたいんですか?

野澤:やはり自分の「比較的若い年齢」と「ゲーム業界を出自としていること」でしか生み出せない、ある種アウトサイダーなものを創っていきたいですし、それが使命だとも感じています。

今の時代、ゲームがどんどんエンタメ産業の中心に食い込んでいるので、ゲーム出自であることを強みとしつつ、同・次世代の若手クリエイターたちと別領域に「越境」して、若い世代に向けた作品をつくっていきたい。

それと、いままではゲームの「システム」を考えてきた人間なのですが、IP事業と映像制作を推進していくなかで、改めて「物語とキャラクター」の偉大さ・普遍性をひしひしと感じています。

平成に生まれて令和を生きる僕たちの感性だからこそできる、ユニークな物語とキャラクターを生み出していきたい。その想いが強いです。今仕込んでいるものもいくつかあるので、出来たらぜひ見て欲しいです。

川村:そうするとどんなキャラクターが登場して、どんな構造の物語がヒットしているのか、勉強しないといけないですね。それは間違いなくIP事業に役立つと思います。

野澤:そういう意味ではやっぱり、トラックレコードをつくらないといけないですよね。僕はまだ何者でもないですから、何はともあれまずはヒットだ、って鼻息荒く日々を過ごしています。

川村:若手が当てるときはやっぱり、ダークホースとして登場しなきゃ。「ドラクエをスマホゲームに」みたいな話はそうそう転がっていませんから(笑)。そのためには、あまり背伸びをし過ぎず、自分がいちばん得意な部分を濃く深くしていくことが重要なんでしょうね。

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